2005年11月30日

地域の活性化

~汗とほこりで働く姿に輝き
 洗濯物を干していると、河原のほうからおいしそうな匂いが漂ってくる。栗林を抜けた向こう、川沿いに建つバーベキューハウスからだ。数年前、立派な背広を着た男性があいさつに来た。「楽しみにしていてくださいね」と満面の笑みを浮かべ、助成金をもとに新しいバーベキューハウスが建てられると話した。

 県の職員だというその人に、少なからず怒りを覚えた。楽しみにする? 私たちが? へんぴな場所にもかかわらず、バーベキューハウスはたくさんの観光客でにぎわっている。河原で遊ぶ子どもたちの歓声にまじって酔っぱらいの大合唱が響く。民家の脇をかすめる細い道を、大きなアウトドア用の車が砂利を蹴散らしながら駆け抜けていく。山あいでの静かな暮らしに安らいでいた住民にとっては、やはり「楽しい」ことではない。それは、観光施設が建設されると決まった時からわかっていたのだ。

 しかし、月日を重ね、この土地に親しむにつれ、私は別の考え方もできることを知った。失ったものはあるけれど、すべてを憎む気持ちにもなれないのだ。

 バーベキューハウスは栗園で管理されており、栗園では地元の人たちがたくさん働いている。せっせと肉や野菜を運び、火をおこし、汚れた鉄板を洗う。広大な栗園の木々を手入れし、秋には枯れ葉を集め、残ったイガを焼く。めまぐるしく走り回っているのは、この間まで郵便局の窓口に座っていたおじさんやら、定年を終えて退職した年配者、近所のおばさん、誰もが見知った顔である。地域が活性化する、というのはこういうことなのだと思った。

 真夏の暑い日、早朝から草刈りに励む姿が目に入った。夕方に事務所のそばを通りかかると、ひと仕事を終えたみなさんが車座になってビールを飲んでいる。「どうだ一杯、酌をしてくれたらタダで飲ましてやるぞ」と声をかけられ、くすくす笑う。失ったものは形を変えて人を潤し、人に輝きを与えている。汗とほこりで生き生きと光るおじさんたちの顔を見るたびに、この土地をどんどん好きになる。

(東京新聞埼玉版・2005年11月30日掲載)

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