2005年07月27日

砂地に動物の足跡

~姿想像し胸高鳴る
 朝早く、近くの河原へ散歩に出ると、砂地にぼこぼこと小さな穴が続いている。よく見るとそれは動物の足跡らしく、前日の雨で降り固まった砂の上に、グーチョキパーのチョキの形がくっきりと残っていた。土手を降りて砂地を真っ直ぐに川へと向かい、水辺の際でぐっと踏み込んだように深くなる。川に水を飲みに来たのだろう。足跡は砂地を横切り、その先にある藪の中へ消える。

 このあたりでチョキの足を持つ偶蹄目といえばイノシシだろう。夜行性なので滅多にその姿を見る機会はないが、人々が寝静まった暗闇の中で堂々と畑を食い荒らしてはその存在を知らしめている。うまいもの、食べごろも心得ているようで、「明日には掘り出そうと心積もりをしていた芋を、ひとつ残らず食われた」という話も耳にする。見事なほど鮮やかに土を掘り返し、きれいさっぱり食い尽くしていくそうである。丹精込めた作物を根こそぎ横取りするのも憎々しいが、狩猟の時期に手追いになり、裏山で人に襲いかかるという凶暴さも持っている。

 夜の静けさの中に、裏手の山から枯れ枝を踏む音が響き渡る。ぱきぱきっ、ぱきっ。こっそり窓を開けて目を凝らしてみるが、人がいる様子はない。いよいよ出たのか。「夜中に物音がして勝手口を開けたら、くるっとうり坊が振り返ったのよ」と話してくれた近所のおばさんがいた。懐中電灯に照らされて四頭のうり坊がいっせいに振り返り、八つの目がぎらりと光った時には腰を抜かすほど驚いたという。

 被害に遭われている方には大変申し訳ないと思うけれど、イノシシの話には胸が高鳴る。四頭のうり坊などと聞くとわくわくしてしまう。ここには、たしかに人間以外の動物が生きていることに嬉しくなってしまうのだ。

 ぱきぱきと枯れ枝を踏む音が、いっそう強くなってきた。背中に細長い縞模様をつけたうり坊たちが一列に連なり、夜の闇を急いでいく姿を想像しながら私は眠りに落ちていく。

(東京新聞埼玉版・2005年7月27日掲載)

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