2004年03月19日

絶対的な数値について

とうとう優勝した。ゴルフを始めるきっかけのひとつにもなった、自治会のおじさまたちが集うゴルフ同好会のコンペで、一位になってしまったのである。

この会では年に2回、コンペを開催している。ちょうど半年前の9月、おじさまたちの歓迎をうけながら、初めて芝の上でボールを打つのがコンペという無謀なコースデビューを果たした。

あまりにも惨めな一日だったので、いまでもよく覚えている。カンカン照りの、黙って立っているだけでも汗がふきだすような蒸し暑い日で、その炎天下のコースを半べそになりながら走りまわっていた。

わたしはゴルフを甘く見ていたと思う。6月からクラブを握り、それから3ヶ月の間、週に一度のレッスンのほかにも練習場にはひんぱんに通った。上達がはやいと先生におだてられ、こんなにうまくボールが飛んでいるんだからコースなんて軽いといい気になっていたのだ。

ところがどうだろう。日差しをさえぎる屋根もなく、練習場のマットのように平らな場所などめったにない。ボールは思いもよらぬ方向に飛んでいき、汗はだらだら、頭はくらくら、自分でも情けなくなって目にはうっすらと涙を浮かべていた。あんなに練習したのに、あんなに頑張って練習したのに。それでも、泣きながらでも、前に進まなくてはならんのがゴルフである。

一緒の組でプレイしたおじさまは、孤独な半べそ女を救ってくれた。しっかり最後までボールを見ろ、ヒザの位置を動かすな、今度はゆっくり羽子板の要領で打て、と一打ごとに的確なアドバイスをくれる。たまにカーンといい当たりが出ると、「ナイスショーット!」と隣のホールまで聞こえるほどの大声でほめてくださる。おじさまのおかげで、わたしはギブアップすることなく18番ホールまでたどりつけたのだと思う。

プレイのあとは近くの集会所で表彰式と大宴会があった。アドバイスをしてくれたおじさまは、優勝候補だったにもかかわらず、わたしが面倒をかけすぎたせいか、準優勝にとどまった。すでに結果表でわたしの無惨なスコアは知れわたっており、「楽しけりゃあいいんだ、スコアなんて関係ないよ」とか「オレなんか、この宴会が目当てでコンペに出てるんだよ」とみんなが励ましにきてくれる。

あるおじさまが、しみじみと言った。「あと2回くらいは、今日のようなつらいラウンドになる。でもそれを乗り越えたら本当に楽しくなるから、ここでやめないで絶対に続けるんだよ。やめちゃだめだよ」ゴルフをやめるのではないか、そう思わせるほどわたしのスコアはひどかったということである。

おじさまはあと2回と言ったが、わたしがラウンドを楽しめるようになったのは6回目からだ。それまでは、ただひたすらつらい特訓を受けにコースに出ていくようなものだった。芝の上を走り回りながら、思うようにできないのがはがゆく、情けなく、やっぱり目には涙が浮かんだ。ゴルフに向いていないのではないか、いくらやっても無理なんじゃないのか、もうやめちゃおうか。

不思議だったのは、クラブハウスにもどって熱い風呂に身を沈めたとたん、「つぎはいつにしようかなぁ、どこのコースがいいかなぁ」と考えていたことだ。毎回おなじだった。ほんの少し前までへこたれて泣いていたというのに、もうすでにつぎを待ちわびている。どうしてあんなに素早く、挫けた心と体が復活したんだろう。

週に一度のレッスン、自主トレ、コースに出て実践。屈辱のデビュー戦のあとは、その繰り返しだった。練習場のスタッフとはすっかり顔なじみになり、「熱心ねぇ」と感心されるほどだった。練習にちがいはないのだが、ゴルフをするのが楽しくて、時間ができるとついつい通ってしまうというほうが正しかった。

飲み友だちの、年輩の男性が「キミみたいなタイプは、ゴルフにはまりやすいんだよね」と意味ありげに笑ったことがある。「学校ではお勉強が好きだったでしょう。好きじゃなかったとしても、こつこつと努力していい成績をとり、わりといい学校に進んでいるんじゃないかな」

お勉強のできる子は、点数による評価にやりがいを感じるタイプが多いという。努力しただけの成果は、はっきりとテストの点数になってあらわれる。いい点数を取ることによろこびを見いだし、絶対的な数値による自己評価を信じるようになる。

ゴルフも同じなんだよね、と彼はいう。上達の度合いはスコアを見れば一目瞭然である。練習を積めば積むほどスコアは良くなっていくだろうから、よしつぎはもっといい成績を出そうとさらに練習に励む。数値という実にわかりやすい形で結果が出るからこそ、キミはそんなにゴルフにのめりこめるんだよ、と彼は冷静に分析してみせた。

人がうきうきと楽しんでいるものを、理屈で分析されてちょっとムッとしたけれど、絶対的な数値を信じるという指摘は鋭い。

対戦型のスポーツだと、相手のレベルやコンディションによってこちら側の勝ち負けが変わる。相対的に自分の実力がどのへんにあるのかを見きわめるのではなく、もっとはっきりしたもので、そのスポーツにおける自分の位置を知りたい。

コースが変われば条件もちがってくるから、厳密にいえば「絶対的」な数値は存在しないのかもしれない。それでも、スコアはじゅうぶんに基準を満たした明確なものさしであると思う。

110というスコアを出したのであれば、わたしは「110」という位置に立っている。120よりも10打少なく、100よりも10打多い。72というパープレイを基準に考えるとしたら、38打のプラス。こんなにわかりやすいものさしがあるだろうか。

コンペではスコアをもとに順位を決めることになるが、誰かと比較してうまいとかへたというのは意識したことがない。絶対的な数値しか信じていないのである。

110であるならば、105を目指してプレイする。105を出すことができたら、確実に上達している証拠である。そうしたら、つぎの目標は100と決まる。ほかの人が80だろうが、120だろうが、わたしには何の意味もない。あの惨めなデビュー戦から半年たって、同じコンペで優勝した。みごとに成長したわたしをおじさまたちは大騒ぎで喜び、この半年間の特訓を想像してか、たいそうほめてくださった。

表彰式では優勝カップになみなみと注がれたビールを一気に飲まされ、賞品のお米10キロを持ち上げて記念写真を撮った。とても楽しい一日だったにもかかわらず、心の底から喜ぶことはできなかった。

初心者のわたしには圧倒的に有利なハンデが与えられていたからである。優勝候補のおじさまとは30打近くの差があった。

わたしは、目標としていたスコアを達成できなかった。あのコースで、あれだけの条件がそろっていれば、なんなくクリアできる目標だった。思いどおりのスコアを出していても、結果的に順位は何も変わらない。けれど、わたしはもっと晴れ晴れとした気持ちで、優勝の杯を飲み干していたと思うのだ。

─────────────
■最近のイノウエ

●新刊本のご案内
『SOHO起業家として生きるム明日の地域経済を拓く元気な挑戦者たちム 』ぶぎん地域経済研究所 編著四六・224頁・1470円/ISBN4-303-73392-X海文堂出版発行

SOHO起業家という道を選んだ11人が、自らの手による執筆で新しいビジネススタイルの詳細を語っています。

わたしは、第4章の「Webデザイナー・プロフェッショナルなWebデザインをめざして」を書いています。装丁・カバーデザインも担当しちゃいました。書店に並ぶのは、24日ごろ。

書籍の詳細はこちらで。http://www.kaibundo.jp/syousai/ISBN4-303-73392-X.htm


●最近の酒
日本酒:純米吟醸ふなしぼり・渡舟、純米吟醸無ろ過原酒・渡舟

泡盛:豊年古酒、島唄、瑞穂、神泉、はんたばる(◎)、久米仙、松藤8年古酒、玉友かめ仕込み5年、南光古酒43度(◎)

◎は、特に好みの味

●最近のうまいもの
夫が中国のおみやげにお茶を買ってきた。食事のときにいつも飲んでいたものらしく、なかなかイケるという。せっかくなので、あちらの飲み方を試してみた。大きなガラスのコップにお茶の葉を入れ、じかに湯を注ぐ。茶葉がひらき、沈んでいくと飲み頃である。どんどん渋くなってしまうような気もするが、そうでもなく、けっこうおいしいのである。

中国茶が好評で気をよくした夫は、つぎに出かけた台湾でもたくさんのお茶を買ってきた。ばらのつぼみを乾燥させたお茶はポプリみたいで、とてもかわいい。茶葉にまじって、ぶどう、マンゴーなど果実のこまぎれがいっぱい入っているほうはものすごくいい香りがするので、小皿にいれてお風呂場においたり、机の上に飾って匂いを楽しんでいる。高山茶は、濃いこげ茶の茶葉なのに、お湯を注ぐと黄金色のお茶が出る。ほんのり甘みがあって、とってもおいしい。


●アイ・ラブ・ゴルフ
冬の間はグリーンも凍っているし、なにより早起きがつらかった。これから4月、5月はゴルフのベストシーズンだという。ようし、楽しむぞお。

by ichiko : カテゴリー:エッセイマガジン

made by XHTML, CSS, Movable Type.
© Go Go ichiko. All Rights Reserved.