2004年02月17日

ザトウクジラに会いに沖縄へ

沖縄料理のみならず、コラーゲンたっぷりの鶏鍋、タイカレー、加賀料理とおいしいものでわたしの舌を目覚めさせてくれた、いわば食の師匠である友だちと二人で沖縄に出かけた。

泡盛の古酒を片手に本場の沖縄料理を食べ尽くそう、というのが旅の目的である。観光地めぐりなどははなっから頭になく、着いた日にホテルのエステルームでボディ&フェイスのアロママッサージを予約していたくらいだ。

沖縄はちょうど桜の季節、暖かい南の島でまずは贅沢なマッサージを受けて心も体も癒し、あとは飲んで食べるだけの究極のリラックスだらだらモードで過ごすはずだったが、直前になってクジラを見るという野望が加わった。

12月から3月の間、慶良間諸島周辺の海域にザトウクジラがやってくる。夏の間は遙か北の海で過ごすザトウクジラは、冬になると繁殖のために南の温かい海へと移動する。この沖縄の海で交尾をし、つぎの冬にはその子どもを産んで育てるのだ。子クジラに体力がついたら、春にはまた北の海に戻っていく。

2月はクジラの数も多いので、彼らに会うには最も適した時期だという。ホエールウォッチングのピークを迎えているのだ。野生の生き物なのだから、必ず会えるとは限らない。会えるだろうか、姿を見せてくれるだろうか、いいえ、わたしが見つけてみせるわ。旅の日が近づくにつれ、心の中ではクジラが旅のメインになっていった。自然の中に足を踏み入れてこちらから会いに行くものだからこそ、こんなにも心が高鳴るのだろう。

那覇に着いて二日目の朝、空は雲ひとつないドピーカン。長袖のシャツでは汗ばむほどだ。船会社のおにいちゃんが、「お客さんたちはついているよ」という。沖縄はここのところずっと肌寒く、悪天候が続いていたそうだ。二日前のウォッチングでは波が2メートル以上もあり、クジラを見るどころではなく全員が紙袋を持って下を向いていたという。

那覇泊港からクルーザーに乗る。ぶ厚い救命ジャケットを着せてもらい、しばらくは後部デッキの床に座っているようにという命令が出る。定員45人とあったが、乗っているのは半分にも満たない数なので楽ちんである。

クジラがいそうな場所までは高速でびゅんびゅん飛ばすので、エンジン音と船のスピードに最初は少し怖かったが、真っ青な空の下で広い海を豪快に走っているのがだんだん気持ちよくなってくる。

絶対に酔わない自信のある人だけ、船長のいる2階席に上がってよろしいというお許しが出て、食の師匠である友人は「あたし、行ってもいい?」と真っ先に上がっていった。残った人たちは舳先のデッキに移動、船酔いがどうしても不安な人は後ろのデッキということになり、酔い止めの薬を飲んでいるにもかかわらず根性のないわたしは後ろのデッキにいた。

出航から30分ほどすると船の速度ががくんと落ち、ゆるゆると進むようになった。どうやら船長がクジラの姿を確認したらしく、船を停める。遭遇する時間としてはかなり早い。わたしは立ち上がり、デッキの横から正面の方をのぞきみる。

「11時、ブローウッ」スタッフの大きな叫び声。数十メートル先の海面に白い煙のようなものが舞い上がる。クジラは親子のようで、大きなブロウの後にちっちゃめのブロウが続く。おおーっ、と乗船客からどよめきがあがる。

ブロウは、潮噴きのことである。息つぎのために浮上したクジラが噴気孔から息を吐き、それが水蒸気となって白い煙や水しぶきのように見える。ザトウクジラの噴気は幅が広く、高さ3~5メートルにもなるので、クジラを見つけるにはこの白い煙を探すのが手っ取り早い。

噴気が上がるたびにスタッフが大声で方向を知らせるので、そちらに目をやると海面を割って大きな弓なりの背中が出てくる。3~4回のブロウを繰り返してから、ゆっくりと尾びれを上げて潜る。潜る寸前にピンと上に向けて裏側を見せた尾びれは、海の上で光るピースサインみたいでかわいい。

船に乗っている誰もが、この「尾びれ」を期待している。できれば大きくゆっくりと尾びれを持ち上げ、水滴をしたたらせながら最後には裏側を見せつつピンとのばして潜ってほしい。尾びれを見ることは、ホエールウォッチングの醍醐味のひとつなのである。

親子クジラは北に向かって泳いでおり、北上すると波が高くなるので別のクジラを探すことになった。スタッフがいうところの企業秘密のネットワークを駆使して電話連絡を取り、舵を握った時には遭遇率100%というベテラン船長の目で、つぎのクジラはあっという間にみつかった。

今度もまた親子クジラである。かなり近いところにブロウが見える。

前のデッキに行こうかどうかグズグズと悩んでいると、ジャケットを取りに来た若い男の子が「前に行きませんか」と誘ってくれる。いえ、ちょっと怖いんで、と言うと、大丈夫ですよと彼は笑い、デッキに続く細い通路で立ち止まって振り返る。わたしを待っているらしかったので、勇気を出してついていく。よろけながらも手すりにつかまってゆっくり歩いていくが、彼は後ろ向きのままでわたしの様子を確認しながら進んでいる。やさしい人だなぁ。

デッキにたどり着くと、彼は何もなかったように彼女の所に駆けて行った。船に乗り合わせた人たちは、誰もがやさしくなっていたように思う。友だちは2階に行っていたけれど、そばにいた人たちが「いまのはすごいね」とか「こっちのほうがよく見えるよ」、「気持ち悪くなっていない?」といろいろ話かけてくれたのでわたしは楽しく過ごしていた。

一緒の船に乗り合わせ、同じ感動を味わったことがみんなをひとつにするんだろうか。それとも、大海原を悠々と泳ぎ回る巨大な生き物に出会ったことでみんながちょっとずつやさしい気持ちになっていくんだろうか。

目の前の海に、ときおり子クジラがにょきっと顔を出す。垂直に浮上して鼻から顔までを出す行為はスパイホップと呼ばれ、周りの様子を確認するためのものらしい。顔が出るたびに小さな目も見える。胸がどきどきする。何を見ているのかな、周りにたくさんボートがいるのがうれしいのかな。それとも怖いのかな。

スタッフによれば、この子クジラは周りを見ているのではなく、まだ息つぎがうまくできないのであんなふうに顔を出して息をしているということだった。顔を出したすぐその横で、親クジラの大きな背中が太陽に光る。勢いよく潮が噴き上がり、そのつぎに小さめの白い煙が空に舞う。親クジラは子供に寄り添うように並んで泳いでいる。

尾びれを見せて潜っても数分後にはまた海面に姿を見せる。今度はどこにあらわれるのか、みんなで息をつめて海をにらんでいる。たくさんの船が来ているのですぐに逃げてしまうのではないかと思ったが、クジラたちはそんなことは気にする様子もなく同じ場所をゆらゆらと泳いでいるのだ。

ウォッチングをする船には自主ルールがあり、クジラを無理に追いかけない、進路を妨げない、クジラの300メートル手前から減速する、少なくとも50メートルの距離をとる、などが決められている。このときは、十隻以上の船が集まっていたが、進路を妨げないように後方から半円形で取り囲むようにして船を停めていた。

あるとき、親子クジラが真正面からわたしたちの船に向かって泳いで来た。大小ふたつの弓なりの背中はどう見てもこちらに進路を取っている。船長はすぐにエンジンを切った。エンジンを切ると、向かってきたクジラは船の真横、あるいは真ん前に出てくる可能性が高くなるという。こちらから近づくのは違反になるが、向こうからやって来てくれる分にはどんなに近くてもオッケーなのだそうだ。

そんな~、わたしの真横にあんな大きなのが浮かんできたらどうすればいいんだろう。しっぽで叩かれたら痛いだろうなあ。しーんと静まりかえってクジラを待っているデッキには異様な緊張感がみなぎっていた。怖い。でも間近で会ってみたい。おいで、おいでよ、とひそかに祈ってしまう。

残念ながら海中で向きを変えてしまったらしく、つぎに浮上したのは十数メートル先だった。がっかりしたような、ほっとしたような。

少なくとも1時間はこの親子クジラを眺めていただろう。飛び跳ねたり、大きな動きはなかったけれど、ずいぶんと長くゆったりとクジラたちと一緒にいられた。

船をおりてからも、クジラの姿が忘れられなかった。海の中で巨体をうねらせて泳いでいる親子クジラを想像しては、うっとりとした気分になった。深い満足感に満たされて、なんだかとてもやさしい気持ちに包まれたまま、沖縄の町を歩いた。

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■最近のイノウエ

●来年の2月にも
昨年のクジラとの遭遇率99%という船会社を選んだ。スタッフがいうには、独自のクジラ探索ネットワークを持たない船会社は海上ではクジラを探すよりもこの会社の船を探しているらしい(笑)。もし一回目のウォッチングで出会えなくても、会えるまで何度でも乗ってやるぞという気合いでのぞんだ。

来年の2月にはまた行こうと思う。座間味村に滞在して、ひたすら船に乗るというのもいいかもしれない。


●当初の目的
食の師匠とひたすら泡盛や沖縄料理を堪能するという当初の目的も見事に果たした。沖縄そばは日に一度必ず食べたし、とある夜は、二人で8品を注文したがきれいに完食した。お店の人も驚いたことだろう。


●最近の酒
焼酎:旭萬年、千亀女、三岳、桜島(原酒)、斬新明鏡

日本酒:純米吟醸無ろ過原酒・天覧山

泡盛:うりずんオリジナル古酒8年・10年、咲元古酒8年、まさひろ、忠孝、瑞泉・白龍

●最近のうまいもの
沖縄の食べ物はわたしの好みにあっているらしく、何を食べても満足感が大きい。ジーマミ豆腐と海ぶどうはどこに行っても注文した。いもを素材にしたドゥル天やウムクジ天も好物になった。フーチャンプルー、ミミガー、アシティビチ、島らっきょう、もずくの天ぷら、幻の紅豚?のソーセージ、豚肉の塩焼き、イナムドゥチ、トロトロジューシー、タコライス、沖縄そば、揚げたてのサーターアンダギー、自分たちでもあきれるほどよく食べた。

帰りの飛行機に乗る直前、搭乗の最終案内も気にせずに、友だちは紅いもアイスを買い込んでなめていた。さすが師匠、最後の1分たりとも無駄にしない人である。


●アイ・ラブ・ゴルフ
1月中旬にゴルフ合宿で千葉の御宿・大原コースまで出向く。朝5時の出発ではまだ外は真っ暗。東金道路を過ぎて九十九里に出ると、海の上に朝陽がのぼっている。なんてすがすがしいのだろう。早起きはやっぱりトクだ。南房総はこの時期でも暖かくてゴルフにはもってこいだと聞いていたが、立っていられないほどの強風で寒くて凍えそうだった。ゴルフに風は大敵。スコアもさんざんであったが、夜はゆっくり温泉につかれたのでよしとしよう。

今週はお誕生日。夫は長期の海外ロケに出て不在なので、友だち、スクールの先生などとコースへ。こんなお祝いも楽しい。


●気になる車
ドラマ『砂の器』で中居くんが乗っているソアラが気になっている。スポーツタイプ、それなりの広さ、品の良さが車を選ぶ条件だが、ソアラはこの3つを見事にクリアしている。しかし、標準で650万円というのではとても手が出ない。

by ichiko : カテゴリー:エッセイマガジン

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