2001年02月09日

全人類のおよそ半数が経験する

ここんとこ、どうもわたしの身体はヘンである。風邪や頭痛、肩こりといったたぐいのものは昔からのおつきあいなので、まぁ仕方ないとしても。最近、いつもどこかしら身体の調子が悪いのだ。健康で元気いっぱい、という日が異常に少ない。

ちょっと疲れ気味、免疫力が落ちている、あるいはストレスがたまっているだけなんだと思っていたけれど、どうもそうではないらしい。調子の悪さは、直接的な原因のある一過性のものではなく、だらだらと慢性的に続いていることに気がついたのだ。

いったいどうしてしまったのか。考えてみると、こんなふうになったのはちょうど一年前ぐらいからだ。

●ポンコツのからだ

まず、肩こりがひどくなった。左肩に図太い釘を打ち込まれたような激痛が続き、首を動かすことさえつらくなった。整形外科でレントゲンを撮ると、頸椎がどうしたこうしたといわれ、しばらくリハビリに通うことになった。首をぐいぐい引っ張る牽引治療と電気、レーザー、マッサージである。

リハビリに通ううちに、激痛はやわらいでいった。首の痛みもおさまりだしたころ、頭のてっぺんに大きなできものができた。粉瘤である。ハデに化膿し、皮膚の下にできた袋を取り出す手術をした。

首の痛み、粉瘤あたりから、わたしの体調は急降下した。頭痛の回数が増え、からだのだるい日が続いた。夏には食あたりをおこし、救急病院に駆け込んで点滴まで受けた。宴会の途中で下痢をして、店のトイレを占拠したこともある。

そして今度は耳の裏に粉瘤。冬になれば風邪にやられて39度の熱を出し、二週間も寝込んだ。皮膚はカサカサで、魚のウロコのように皮がむけ、その名も「老人性乾皮症」である。

ひどすぎる。あんまりだ。なのに追い打ちをかけるように、三日前から差し歯の根元が腫れだした。歯科医は「普通、こんな腫れかたしないよ。身体に負担をかけすぎたり、ストレスをためるからこういうことになるんだよ」という。仕事のほうはヒマであった。「ふぬけ」だったんだから、ストレスなどたまるわけがない。しかし、わたしの歯ぐきは腫れるのだ。

ボロボロである。廃車寸前のポンコツ車みたいだ。ひとつケリをつけても、またすぐに別のところがイカれてしまう。つぎからつぎへと故障する。いつもどこか調子が悪い。

あきらかにわたしの身体は衰えている。どこかのネジが一本はずれたために、身体じゅうのあちこちが微妙に狂い始めている。微妙なんだけれど確実にガタがきていて、それがここにきて一気に吹き出したような、そんな感じだ。

30歳になったとき、わたしはまだまだイケると思った。なーんだ、30代になったといっても、それほど変わりはないじゃないか。

35歳を過ぎても、わたしは身体の変化を感じなかった。外側だって、まだしゃきっとしていたものだ。クラブの暗がりでは、20代でじゅうぶんに通用した。

しかし、38歳になったころから、20代とはとてもいえなくなった。肌の艶がない。夜が更けるにしたがって、疲れたオバサン顔になってゆく。いつもからだがだるい。覇気がない。なにより、腹まわりがたるんでいるのだ。この腹は、どう見ても中年である。

若いころ、わたしはヤセっぽっちだった。高校時代はいまと同じ身長でありながら、体重は40キロに達していなかった。子供のころからガリガリにやせていたので、「そうか、わたしは太らない体質なんだ」と信じ込んでいたのである。

太らない体質にも、中年太りはやってくるのだ。年を取るにつれ、腹まわりだけにぷよぷよと肉がついた。面白いほど、たっぷんたっぷんにお肉がつくものなのである。思春期にオンナらしい成長を遂げることのなかったわたしの身体は、オッパイもヤセている。貧弱な胸に、ふくよかな腹。これはカナリ悲劇的だ。

●更年期? まさかそんな

悲劇的な外見に、内側からもガタがきている廃車寸前のポンコツの肉体。身体の調子が良くないと、気分まで落ち込んでくる。そういえば、なんだか最近、外に出るのも億劫になってきた。

「それって、更年期の兆候じゃないの?」と友だち。

こうねんきぃ? なにいってんのよ。更年期なんて言葉は、50代のオバハンたちに使うものでしょ。わたしはまだ40前なのよ。といいかけたところで、ちょっと気になることを思い出した。

整形外科に行ったときにも、内科を訪ねたときにも、最後に必ず年齢を聞かれたのだ。生年月日はカルテに書かれているのに、医者は「ええと、いま何歳ですか」とまるで確認するかのように聞いてきた。

「だからさ、医者は更年期障害の可能性を考えたんだって。そういうお医者さんは、いい医者なんだよ。更年期障害にもかかわらず、そこを考えずに別の検査をしたり、薬を出す医者はいっぱいいるんだからさ」

この友だちは、女性の身体について実に詳しい情報を持っている。婦人病や更年期、その手の記事を得意とするライターなのだ。つい先日も更年期障害について医者に取材したばかりだという。

「更年期っていうのは、閉経前後の5年間、合計10年間を指すの。平均的な閉経年齢は50歳だから、だいたい45から55歳だね。人によって個人差はあるけど」

ふーん、とわたしは気のない返事をした。更年期。ギリギリ30代にとどまっているわたしにはやっぱりその言葉はどこか他人事で、遠い向こうにあるものだった。そう思いながらも、雑誌や新聞で「更年期」という文字を目にするたびに、いつしか真剣に読みあさるようになった。

更年期には、加齢にともない卵巣の機能が衰え始め、女性ホルモンの分泌量が激減する。ホルモンの低下によって引き起こされるさまざまな症状を更年期障害と呼ぶ。ほてり、のぼせ、頭痛、めまい、不眠、しびれ、肩こり、腰痛、頻尿、疲労感、食欲不振など、その症状は多岐にわたり、更年期の長さや症状には個人差がある。

●男はホントにあほである

更年期について詳しく調べているときに、ある男友だちからこんな話を聞いた。

「いやー、Yさんにはまいったよ。ひさしぶりに会ったら、あまりにも変わっていたんでびっくりした」と彼がいう。Yさんは、彼が10年も前から仕事をもらっている制作会社の女性ディレクターだ。しばらく前から身体の調子が悪くて病院通いをしていると聞いていたので、なんとなく気になっていた。

「身体がどうこうってもんじゃないらしいぜ。そんなことよりさ、性格がとんでもないことになっていてさ」

「とんでもないって、どういうことよ?」

「気分の浮き沈みが激しい。それに、異常なくらいに気が短くなった。怒鳴る、わめきちらす、いらつく、ヒステリーを起こす。こっちが何いっても聞かないし、すぐにブチ切れる。あれじゃ仕事にならんのよ、いやぁまいった」

「どうしたのかな、仕事で何かあったのかなぁ」

「心の問題みたいなんだよね。社内の人に聞いたんだけど、鬱病の薬を飲んでいるらしい」

そこまで聞いて、これこそ更年期の症状なのかもしれないと思った。Yさんは、40代なかばである。更年期の始まりの時期だ。情緒不安定、ヒステリー、いらつき、そして鬱の薬。更年期障害の精神的症状にあてはまる。

身体だってつらいはずだ。まわりには悟られないようにしているけれど、のぼせや頭痛、めまい、疲労感、いろんな症状にひとりで耐えている。肉体的な変化も、精神的症状も、自分ではどうすることもできないのだ。いらついているのがわかっても、どうすることもできないのだ。

わたしは彼に更年期について話してみた。そして、たぶんYさんも更年期を迎えているのだろうということも。そういう身体の変化を理解してあげられないものなのか。そういうものなのだと受け止めてあげることはできないものなのか。そして、手をさしのべることはできないものなのか。

「そうかぁ。Yさんも長いつきあいなんだから、言ってくれれば良かったのにな」

男はホントにあほである。どうして、いえようか。10年以上も彼女はアンタを使うディレクターとして仕事をしてきたのだ。しかも、アンタは年下の男である。上に立って仕事をしてきた女が、仕事相手の年下の男に「わたしは更年期です。つまりもう閉経するんです」なんて口が裂けてもいいたくないだろう。いえるわけがない。

●あまりにも残酷な自然の摂理

「その更年期って、どれくらい続くわけ?」

わたしはちょっと言いよどんだ。彼の反応が想像できたのと、それを口にするのが自分でも怖いような感じがあった。

「10年くらい。人によって個人差があるけれど、だいたい10年ぐらいっていわれてる」「じゅ、じゅうねん? これから10年もあれが続くのか。勘弁してくれよ。あれじゃ仕事にならないんだよ。うんざりだよ~」

うんざり、か。わたしはどうしようもなく切なくなった。Yさんは、わたしより7つか8つ年上だろう。わたしが就職するときには、男女雇用機会均等法なんていうものはなかった。給料には男女格差があり、女はお茶くみをするのが仕事だとされていた。それよりも前に社会に出たYさんは、もっと厳しい状況のなかで働いていたはずだ。

いまの仕事を得るために、どれだけの努力をしただろう。男と同じように評価されるために、どれだけ頑張ったことだろう。どれだけ悔し涙を流したことだろう。そして、いまYさんは制作ディレクターという地位にいる。頭の切れる、とても優秀な女性だ。

彼だって、長い間Yさんの下で仕事をしながら、彼女に育ててもらったのだ。人として、ディレクターとして尊敬しているともいっていた。なのに、更年期になったら「うんざり」だと吐き捨てる。

40代のなかば、男だったら、まさにこれからというときを迎える。自分の仕事に自信を持てるようになり、周囲からの信頼も増し、責任のあるポストをまかされる。同じ時期に、オンナは更年期で苦しみ、まわりからは「うんざり」と煙たがられる。

いままでの努力も、積み上げてきたキャリアも、更年期で全部すっとんでしまうのだ。ひどい。ホントに不公平だ。社会は、仕事は、いつだってオンナが対等に立ち向かえないような仕組みになっている。女の身体は自然の摂理。あまりにも残酷な摂理。切なすぎる。こんなのって、ない。

わたしは彼にいった。

「わたしも、近い将来更年期になるよ。わたしだって、怒鳴って、わめいて、ヒステリーをおこすんだよ」

そのとき、彼はずっとこのまま友だちでいてくれるだろうか。全人類のおよそ半分が経験することに、残りの半分はあまりにも無知だ。知ろうとしない。理解しようとしない。受け止めようとしない。そして、あまりにも冷たい。


──────────
■近 況
◎赤福を食い損ねる
突然、伊勢神宮に行ってみたくなった。テレビで赤福を見たせいかもしれない。場所や交通手段などを調べ、いざ週末はお伊勢参りと意気込んでいたら前歯に激痛。歯茎が腫れて、化膿していた。お伊勢キャンセル。天照大神はわたしに会いに来るなといっている。

◎それが運命
駅で偶然わたしを見かけたという。後になって聞いた。あんなに人混みの多い場所で、偶然にすれちがっていたとは。「ナンカ運命かんじるぅ~」というわたしに、「逆だよ、逆。そんな近くにいながらもアンタは気がつかなかった。二人は引き合わされることがなかった、それが運命」と友だち。す、するどい。

by ichiko : カテゴリー:エッセイマガジン

made by XHTML, CSS, Movable Type.
© Go Go ichiko. All Rights Reserved.