2008年06月21日

キ・レ・イ

台湾に行く目的のひとつに、お茶を買う、というのがある。
夫も出張で出かけたときには必ず買ってくる。

何回か前に、お店を変えたんだ、と言っていた夫は、
さっそく新しいお茶やさんに連れて行ってくれた。

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どしゃ降りのなか、店に駆け込むと
ちょいと頭の禿げかかった店主がにこやかに椅子をすすめてくれる。
張さん、というのだそうだ。

お茶の種類と値段が書かれた日本語のメニューを渡される。
台湾茶はじつに種類が豊富で、お茶やさんではメニューのなかから
好きなものを選んで試飲させてもらえるのだ。
わたしは迷うことなく、金萓茶(キンセンチャ)を、と言う。
ばかのひとつ覚えのように、わたしはこのお茶しか買わない。

台湾ではお茶摘みの時期は年に二回、4月と5月の春と10月と11月の秋で、
春のほうが香りが強く、味わいも深いのだそうだ。
ちょうどいまは春の新茶が出回るころ。
張さんがちんちんに沸いたやかんの湯を注ぐと
眠っていた茶葉がゆっくりを葉を開き、
あたりはびっくりするような甘ったるい香りで満たされる。
ひさしぶりに、当たりのお茶に巡り会ったようだ。

ついでだから、と夫は東方美人茶と茉莉花茶も頼み、
お茶を飲みながら張さんと総統選挙やら馬英九やらの話で盛り上がっている。
台湾の人はとても気さくなので、どこに行っても
たいていは腰を落ち着けての長話になるのだ。

わたしには気になっていることがあった。
夫とわたしが並んで座り、茶器ののったテーブルを挟んで張さんがいる。
張さんのとなり、わたしの目の前にはもうひとり、男のひとがいる。
お店に来たときからいたのだけれど、
どうやらお客さんというのでもないらしい。
かといって従業員というふうでもない。
わたしたちが試飲すると、張さんはその人のほうにもお茶を注いでやる。
だまって彼は茶をすすっている。
会話に入って来ないところをみると日本語はわからないのだろう。
目をあわせようとちらちらと顔を見るが、
ずいぶんとシャイな男性のようで、すぐに下を向いてしまう。

この方は、いったいだれなのでしょうか。
我慢しきれずに、わたしは張さんに聞いた。
ふははっ、と笑ってから、ご近所さんね、
暇になるとここに来てはお茶を飲んでいくね、
林(リン)さんというのよ、友だち友だち。
それから張さんは林さんになにごとかを言い、
ようやく林さんは、どもども、と笑ってわたしの顔を見た。

あいかわらず、張さんと夫は仕事やらなにやらの話をしており、
ぼんやりと聞いていると、
なんちゃらかちゃら、と林さんが声をかけてきた。
へ?
ぶるーじぇい、なんちゃらかちゃら。
ほ?
林さんはお茶の注文票かなにかの紙を裏返し、
そこに文字を書いて、わたしに見せる。
そう、わたしたち漢字の国の民は筆談ができるのだ。
まかせておきなさい、筆談。
しかし。
たったふたつの漢字が、わたしには読めなかった。
いったい何画あるのでしょう、というぐらい、複雑な字だったのだ。
ぶるーじぇい、と言いながら、
林さんはわたしの手元を指さしている。
ブルー?
もしかして指輪のことを言っているのかしら。
このトルコ石の指輪? とわたしは英語で言ってみた。
おーいえーす いっつなんちゃら、と英語が戻ってくる。
困ったときにはカタコトの英語でさえ役に立つものであります。

紙には漢字を書きながら、話しているのは英語、という妙な方法で
林さんとわたしは地道に会話をつづけた。
台湾の南部、ミジンコの形の国のちょうど下腹部あたりはトルコ石の産地で、
わずかな量しか採れないのでとても高価なのだそうだ。
その大きさだと日本円で百万円はする、そんなものを台湾でしていては
危険であるぞよ、などと心配している。
いえ、これは超安物ですから、だいじょぶだいじょぶアルネ。

林さんが張さんになにごとかをたずねている。
なんだろう、紙に書いてくれればわかるよ、と思っていたら、
林さんはわたしに向きなおり、
キ・レ・イ、と言った。
え?
トルコ石の指輪をさしながら、ゆっくりともう一度、
キ・レ・イ、
と林さんは言った。
照れ屋の林さんがマジメな顔をして言うものだから、
わたしまでなんだか恥ずかしくなって、うつむいてしまった。

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お茶を飲みながら雑談しているところを撮りたかったのに、
デジカメを取り出したとたんに、しゃきっと立ち上がった台湾のおふたりさん(笑)。
お店の女性が写してくれたのは、手ぶれブレブレだけど、ま、いいや。
一番左が店主の張さん。
一番右が照れ屋の林さん。林さんは会計士、税理士で近くに会社を持っているのだそう。台湾は4、5月が税金還付の時期で、いまはその忙しさから開放されてほっとしているんだって。

ぼやけて見えないけれど、額縁の写真は蒋経国(蒋介石の息子)と李登輝のふたり。お茶を淹れているのは張さんのお父さん。
その下には伊藤美咲と張さんのツーショット(笑)。

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金萓茶20本、茉莉花茶10本。
まるでお茶の行商人。

by ichiko : カテゴリー:台湾旅行記【2008年】

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