2006年06月01日
【台湾:二】九イ分(チョウフン)
候孝賢監督の映画『悲情城市』の舞台になったことで有名なのだけれど、日本人には宮崎駿監督のアニメ『千と千尋の神隠し』でモデルになった街として人気が出ているらしい。
台北駅から電車でおよそ50分、瑞芳駅で降りてバスに乗り換える。曲がりくねった山道を怖ろしいようなスピードでバスはかけのぼり、やがて左下には海が、右手の斜面には九イ分の家並みが見えてくる。


急な斜面にはりつくようにして佇む九イ分は、金鉱として賑わった街だ。「日本の資本が入ってきて、台湾人は一生懸命に金を掘った。すべての金を掘り尽くしたあとはスズを掘った。わたしのおじいちゃんはスズを掘る仕事をしていたけれど、肺を患って死んでしまった」。一緒に行った台湾の友人、林(リン)さんはそう言った。「ごめんね、いっぱい儲けたのはきっと日本人だよね、台湾の金鉱なのにね」。その場しのぎの安易なことばしか出てこないのが情けなかったけれど、それでもいわずにはいられない。「そんなこと、ぜんぜん気にしてない、もうそれは終わったこと、過ぎ去ったことだよ」と林さんは笑いとばす。そのむかしの苦労を知らない世代だから許せるんだという人もいるけれど、自分の知らないうんとうんとむかしのことを、いまだに憎み、恨んでいる国の人たちもいるのもたしかだ。
傘をさしながら、「晴れもいいけれど、九イ分には雨がよく似合うよ、しずかーにぼーっと霞んでいるほうがロマンチックね」と励ますようにまた林さんが笑いかけてくる。

みやげもの屋が灯りに照らされる。
まずは魚の団子と春雨が入ったスープで腹ごしらえだ。つぎは芋団子にあずき、金時豆、緑豆がかかったおしるこを食べ、作ったばかりのあつあつのパイナップルケーキやさといものまんじゅう、緑豆のパイなどを試食皿からつまみ食い、もうこれ以上は入らないよと腹をさすりながら、切り干し大根が入ったむちむちの草餅を買って食べる。どれもこれもストライクゾーン、あまりのうまさに食べる手が止まらない。まさに千尋の両親のようで、いまにもブタになりそうだ。

みやげもの屋の通りをこえると石段にさしかかる。坂の下が見えない。

阿妹茶樓

『悲情城市』で登場したお店には、ちゃんと看板もある。

窓から涼しげな風が吹いてくる。そして、海。時間を忘れていつまでもいつまでもここに座っていたい。

お茶をいれてくれた中国人。(ではなくて、夫)。

いつの間にか、人がいなくなった。傘をさす人影が消えると、やっぱり寂しい雰囲気の街になる。

石段を振りあおぐ。
急な石段と、赤いちょうちんが揺れる廃坑の街、林さんがいったように、たしかに雨がよく似合う。
by ichiko : カテゴリー:台湾旅行記【2006年】
