2005年12月26日

自販機が入り口

タバコが切れたので、近くの商店まで車を走らせる。昨晩の話。夜の闇で光を放つ自動販売機、灯りのなかには先客がいた。タバコが並ぶガラスを見つめて立っている姿がどことなく不審だったのだけれど、わたしが車を降り、自販機にたどり着くまでには買い終えているだろうと思ってゆっくり歩いてみるが、以前として不審なおじさんは身動きせずに立っている。

二台の自販機が光っている。おじさんがいないほうの自販機に近づき、小銭を入れる。ちゃりんちゃりんという音が響き、まるでそれがスタートボタンだったみたいに、真っ白な光を放射する自販機のガラスにおじさんの頭がひゅうと吸い込まれたかと思ったら、腹から足先まで一瞬に光の奥に飲み込まれていった。というのはうそで、わたしが近づくと、「やっ...」とおじさんはちょっと後ずさり、それでもなおタバコが並ぶガラスを見つめているだけだった。

小銭が足りないのかな、と思った。一万円札はあるが、小銭がないのでタバコが買えない、というのはよくあることだ。50円ぐらいだったら、あげてもいいな、と考える。「おねーちゃん、小銭が足りないんだ、ちょっと貸してくれねえか」といわれたら、さあ、どうするだろう。「貸す」というのはこの場合、言葉のあやだろうと思われるので、正しくはあげることになる。100円でもあげちゃうかな。いや、270円を差し出すぐらいでなければタバコ吸いとしての仁義にかけるな。こんな夜に車を走らせてたどり着いた自販機だ、いますぐにでも吸いたいはずであろうから、差し上げる上限はタバコ1箱分とするのが同志というものではないのか。

などということを考えつつ、自分のタバコを買い、足早に車にもどる。おじさんはじっと自販機の前。勇んでタバコを買いに来てみたが、自分の銘柄を探しているうちに、とうとつに禁煙を思い立つ。税金も上がることだし、いっそのこともうやめちまおうか、タバコなんざぁスパッとおしめえにしちまうか、それがいんだんべいんだんべ、いや、でももう一服してからにすんべか、あともう一服。と逡巡している、というのもあり得る。

走る車のなかから、振り返りざまにもう一度おじさんを見る。光る自販機に、自分の姿を映して何かを待つようにじっと立っている。あそこがおじさんの入り口なのかもしれない。何かをきっかけにあの光の先に滑り込んでいく。わたしは、540円を入れ、2個続け買いボタンを押した。270円で1個買い、が、おじさんの扉を開けるスイッチだったのかもしれないね。

by ichiko : カテゴリー:日々のあれこれ

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