2005年12月25日

夫のアヤシイ行動(5)

■人生ゲームM&A版
人生ゲームは「M&A」版というもので、ひたすら企業を買収して金持ちを目指す人生だった。子どもは産まれないが、パートナーとか韓流スターを雇う、などで車に乗せる人は増える。

わたしは1枚1千億円の真っ赤な手形を貯め込む借金人生に陥り、ゴール直前の精算ポイントで完済ができず、「人生いちかばちかの賭け」をするハメに。好きな数をひとつ宣言し、失敗すれば「人生の挫折」へ直行。ルーレットの数は1~10まで、当たる確率は10分の1。当たるわけねーだろっ、と捨て鉢になったが、宣言した「5」のところでルーレットの針がピタリと止まり、本人よりも友人たちがびっくり仰天、大騒ぎになった。ルーレットのひと回しでドン底から天国へ。一瞬にして大富豪、勝ち組になる。いちかばちかの人生、これが現実にならぬように祈るのみだ。

運を引き寄せたのか、その後のゲームもひとり勝ち。企業を買いまくり、面白いほどの大金を手にする。貧困にあえぐ友だちに、「1千億円あげるからその企業をちょうだいよ、お金、ほしいんでしょう~」などと金にモノをいわせて乗っ取りを企むが、「モノポリーじゃないんだから、裏の取引はいけまん」と叱られる。世の中やっぱり金よっ、カネ~っ、とひとり叫びながら、夜は更けていくのだった。


■その糸は
かれこれ5年の付き合いになるけれど、そのお友だちが料理好きであるとは知らなかった。ひとり身で、かつ仕事に追われる人でもあったので、手料理を披露する機会がなかったのだろう。この夜、彼女が作ってくれたのは、スタッフドチキン、みぞれ鍋、たこ焼き、ケーキ、宴会とクリスマスがごったになったメニューというのも面白かったけれど、なにより驚いたのはどれもこれもとてもおいしかったことである。ほんとうにあなたが全部作ったの?と何度も確認してしまった。

スタッフドチキンの縫い目がどうにも気になった。もしかしてもしかして。ねえ、これ、何の糸を使ったの?と聞いてみる。「ああ、それね、手術用の糸を拝借しました」とあっさり白状する。彼女は大学病院の外科医、いまは派遣医師としていなかの診療所に来ている。彼女が縫った鶏の腹を、しげしげとみつめてしまった。


■だれよ、それ
「モトコちゃんの番だよ」。夫がいう。
はっ? いっしゅん、みんなの手が止まる。ルーレットに手をかけていた人も、ルリカケスを飲みくだしていた人も、敵対的買収に望みをかけてどこぞの企業カードをにらんでいた人も、だれもが夫を見る。

「モトコ」などという名前の女はおらぬのである。

ここにはモミコもいないし、サトコもいない、いいまちがいのあるはずもなく、なんだか気まずい雰囲気が流れる。モトコって、ダレよ。張りつめた空気に押し入ったのはわたしである。ダレよ、ソレ。あれれ~、なんでそんなこといっちゃったのかなぁ、そんな名前の友人はいないのになぁ、ははは~、とノーテンキ夫は笑ってごまかす。えへらえへらと笑う夫につられ、なんとなくみんなも笑い顔になる。モトコってダレなのよモトコってモトコってモトコってとわたしひとり胸のつかえがおりぬまま、ルーレットは回り、赤や青の車がボードのうえを進んでいく。

人生ゲームにも飽き、場はUNOに変わった。単純なカードゲームは何度やっても飽きることがない。そろそろ東の空が白み始めるころ、夫はふたたび口を滑らせた。

モトコちゃん、悪いけどお茶を取ってくれるかな。

さすがに二度目は黙って通り過ぎるわけにはいかぬ。だれかが「アヤシイぞ」とひっそり言う。するとだれかが「そうだ、アヤシイ、絶対にアヤシイよ」、「アヤシすぎる、モトコ」、「気をつけたほうがいいわよ、モトコ」、「困ったよねぇ、モトコ」。

アヤシイ、アヤシイの声に包まれて、イブの一日が始まろうとしているのでありました。

by ichiko : カテゴリー:夫、身内について

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