2005年11月25日
さらば蛇口
台所の蛇口が寿命をまっとうした。取っ手からじんわりと水が漏れる。目には見えないほどの漏れなのに、水はしずかに確実にわきだしており、ふと台所に立つとシンクの上に海がひろがっている。
何年になりますか、と業者さんに聞かれ、10年、と答える。ちょうど家を建ててから10年が過ぎた。
「そろそろ壊れる時期ですね」
同じような水漏れを発症し、3~5年で無念にも短い命を閉じる蛇口もいるという。10年も持てば、蛇口としては平均的な寿命です、あなたに落ち度はなかったんですよ、という業者さんの言葉に励まされるが、なかには20年もの長寿をまっとうする蛇口もいるそうで、ああ、もう少しやさしく押してあげればよかったな、高齢を迎えてからのトレビーノの装着が追い打ちをかけたのかもしれないな、などとやはり自分を責めずにはいられない。
逝ってしまった蛇口のことを思うとせつないが、わたしには新しい蛇口が必要である。いつまでもシンクの上が海では困る。総取り替えになるというので、業者さんが置いていってくれたカタログを開き、新入りの選出にかかる。
「ねぇ、どれがいい?」
いかにも興味がなさそうな夫は、「好きなのにしていいよ」という。
「じゃあ、コレ」
間髪入れずに、一枚の写真を選ぶ。
早いね、とつぶやきながら夫は選ばれた子の写真を見つめ、長所や趣味の欄を読んで、ぎょっとする。
「あ、一番高いヤツじゃん。いま値段で選んだでしょ、どうしてキミはいつも値段で選ぶのだ」
ひー、ばれたか。資本主義の原理原則として、値段の高いものはいいものに決まってるんじゃないの。フロキホースとかミクロソフトとかいろいろついているみたいだし。それが何かはぜんぜんわかんないけれども。
「それにしても高すぎる。蛇口ひとつに55,000円は高い」
「じゃ、コレ」
「あ、また値段で決めたな。48,000円もするじゃないか」
「え~、じゃ、コレで手を打つよ」
「値段の高い順番からいってるだけだな、許せん~」
ニューカマーはいまだに決まっていない。
by ichiko : カテゴリー:日々のあれこれ
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