2005年03月10日

ほとけおどし

線香と米粒をいれた袋をにぎりしめ、ひとりでずんずんずんと丘をのぼる。

おとうさん、また来ましたよ。同じ3月9日でも、こんなにもお天気がちがうんですねぇ。あの日はぶ厚い雲がたちこめる、どんよりと暗い日だった。お葬式のときには、開け放った縁側から雨まじりの風が吹き込んで、一番前に座っていた夫は寒さでぷるぷると震えておりましたよ。お坊さんが最後に「梅の花咲く春なのに なぜにあなたは逝く」という句のようなものを詠みましたが、春とは思えぬ外の様子にあっていないなとちょっと笑ったのを覚えています。けれど、「なぜにあなたは」というところだけ、こだまのように耳の奥で響いていたのも覚えています。あらゆるものが芽生える季節に、なぜにあなただけ逝ってしまうのか。梅の花が咲くころになると、知らぬうちに なぜにあなたは、とひとりでつぶやくことが多くなりました。

14年前のこの日、義父は逝った。義父とは話をしたことがない。わたしたちが出会ったころにはすでに重い病気を患っており、幾度か大きな手術を受けたあと、静かに息をひきとった。それからしばらくして、わたしたちは結婚した。だから、義父のことはほとんど何も知らない。わたしは話もしたことのない人の墓前に座り、ぶつぶつとなにごとかを言い、春の陽気に誘われて長居をしているのである。神頼みならぬ、仏頼み。義父ならば、なにかしら助けてくれそうな気がする。

始めのうちは、遠慮がちに「どうか見守っていてください」などとお願いしていたのが、あれこれつぶやいているうちに「もう少し力を貸してくれてもよさそうなものを」と恨みつらみが混じる。しまいには、あなたが残した家族なんだから少しはそっちからも後押してくれないと困るんだよ、自分はさっさと先に死んじゃって、あとは知らん、勝手にしろってことなのかい、ちょっと力を貸してくれるだけでいんだけどね、それもダメなのかい、と墓をにらみつけている。

仏頼みというよりは、ほとけ脅しに近い。

by ichiko : カテゴリー:夫、身内について

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