2005年02月26日

黒い鹿

ひさしぶりに腹が痛い。ぎゅぎゅっとだれかが腹わたをねじあげている。うっすらと額に脂汗をにじませながら、仕事をつづける。

ふっと窓辺になにかがあらわれる。鹿だ。ぴんと三角の耳をのばした鹿が、わたしの左肩をかすめるようにゆっくり通り過ぎる。

ついに鹿を見た。ようやく来てくれた。その姿に見とれながら、あれっ、と思う。窓は机の真正面にあるのに、鹿はわたしの横を過ぎていこうとする。なにかが歪んでいると気がついたときに、通り過ぎていく鹿の背中に大きな羽があるのを見た。

羽は真っ黒だった。黒い羽から墨がこぼれていくように、鹿の姿はあっという間に真っ黒になった。

黒い鹿が狙っているものはすぐにわかった。わたしは左うしろにユニコーンを隠していた。こないだ散歩の帰りに林の奥でみつけ、だれにも言わずに、夫にも秘密にして仕事部屋でこっそり飼っていたのだった。

だいじょうぶだからね。振り返ると、ユニコーンもまたどす黒く塗りつぶされていく。すらりとのびた足もとにはいつの間にか小さな虫たちが群れ、がしがしと足をくいちぎっていく。みるみるうちにユニコーンの足がばらばらに崩れていく。

「たいへんっ、わたしのユニコーンが食われている、どうしよう」
夫の仕事部屋にかけあがり、叫ぶ。
隠していたはずなのに、夫はちっとも驚かない。それでいいんだよ、それがいいんだ、と言う。

そんなのひどいよ、なんとかしてよ。そんなのって
「そん!」という自分の声で、飛び起きた。全身はびっしょりと汗にまみれている。あいかわらず、ねじあげられるように腹が痛い。

夢だった。
なのに、すうっと、たしかに黒い鹿がわたしの左をすうっと触れるように過ぎていったのだ。

by ichiko : カテゴリー:日々のあれこれ

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