2005年01月04日

節分のねがい

 街への通り道にある不動尊で、福豆進呈という旗が揺れていた。豆まきなんてしないけれど、御利益がありそうな気がして車を止める。福豆と書かれた小さな袋には、20粒も入っていない。ほんの気持ちの浄財をおいて、わたしの分と夫の分、二袋をいただく。
 
 ポケットにしまいつつ、ちょっと考えてから、もう一袋手にとる。お札や絵馬といっしょに並んでいた、ひと束百円の線香も買った。
 
 家に戻ってから、面倒くさがる夫を連れ出して、裏の丘をのぼる。てっぺんに立つと風がびゅうびゅうと吹き抜ける。こんな小さな丘なのに世界を見下ろしているような気持ちになる。
 
 丘ひとつへだてた向こうに、十五年前に亡くなった義父がいる。墓地に入ると、どこからかみゅーみゅーとネコの鳴き声が聞こえてきた。グレ子である。このへんいったいの野良猫の総本山、すべてはこの一匹のメス・グレ子(とわたしが名付けた)と、どこかのオスから始まった。いわば、井上地区のノラネコのルーツだ。
 
 人恋しいグレ子はにゃごにゃごとそばにひっつくばかりで、お墓に水をかけるにもうっかりするとグレ子が水びたしだ。線香に火をつけようとかがんだ夫の股の間からぬうぅと顔を出して、危うく毛を焼かれそうになっている。
 
 線香の煙もいっしゅんにして舞い上がる強い風。

 おとうさん、すっかりごぶさたしておりまして、誠に申し訳ありません。なにぶん、こちら側の世界で日々を生きていくことだけで精一杯で、そちら側を思いやる余裕というものがござんせん。そんなだから、おとうさんもきっと怒っていらっしゃるんでござんすね、わかっていますとも。これからは心を改めまして、たびたびお伺いしようと、まずはそのご挨拶ってんで参りましたしだいであんす。きょうはこちらは節分でございます、不動尊でいただいた福豆を持参いたしました。豆でもつまみながら、まあ、ゆっくり、はい、どうぞ。20粒にも満たない豆で、お願いごとってのもナンですが、まあ、あなた様にも関係のあることですから、ひとつお聞きくださいましな。年老いたお母さま、最近とげとげしくなるばかりのお姉さま、働けど働けど楽にならない夫、つまりあんたさんの息子でんがな、などなど、どうかお力ぞえをお願いしやんす。贅沢は申しませぬ、みなが心穏やかに、やさしく、平和に日々を送れるようお頼みもうしまんす。どうもさいきん煮詰まってきていていけません。あっちもこっちもぐつぐつじゃあ仕方ねぇ。あ、いえ、微力ながらわたくしもみなさまと幸せになるべく努力を続けてまいりますので、なにとぞそちらからもお力をお貸しくださいますよう、なにとぞ、なにとぞ。お聞き届けくださいませ。なむなむなむ。にゃごにゃごにゃご。

by ichiko : カテゴリー:夫、身内について

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