2004年12月04日

言えない気持ちの行き先

 ぼーっと聞いていたら、とつぜん友人に叱られた。
「ヒトの話を聞いてるの?そういう態度、ちょっとひどいんじゃない?」
「あ、ごめん...」

 友だちはつづきを話し始める。矢継ぎ早に出る言葉がじんじんと頭に刺さる。意味を理解する前に、ただの雑音になった言葉を心がはねかえしてしまう。

「ごめん、わたし帰る。熱があるみたいで、ふらふらしてきたから」。朝から熱っぽく、待ち合わせ場所に着いたときには体じゅうがほてるように熱かった。もういちど怒らせる前に、席を立とうと思った。

 しかし、それでも彼女は怒ることになった。
「なんで、もっと早く言ってくれないのよ。体調が悪いって知っていればあたしだって気をつかったわよ」
「ご、ごめん...」

 帰る道すがら、もやもやとした思いだけが胸に残った。

 ときどき、わたしは周りの人に似たようなことを言われる。
「どうして言ってくれなかったの」
「親しい仲だからこそ、言ってほしいのよ」
「言葉にしなきゃ、何も伝わらないよ」

 たぶん、それはわたしの物言いや仕事によるものだと思う。言葉を飾らずにシンプルに話すので、歯に衣着せずにストレートをモノを言う人、言いたいことをすべて言葉にする人と思われている。ストレートに表現することと、心のうちのすべてを外に出しているかは別ものだ。

 文章を書く仕事をしていても、いまの自分の状況や感情をすぐに言葉にして伝えられるわけではない。文章を書くときには、特にお金をもらう文章は、何度も言葉を捨て、拾い、選びなおす。何度も何度もそれを繰り返して、ようやく思っていることのほんの少しを伝えられるような気がする。

 どうして言ってくれなかったの、という友人には、「言えなかったから」としか答えられない。あるいは「言いたくなかったから」という場合もあるかもしれない。

 真実は、言葉という形のなかにしか存在しないのだろうか。熱っぽく火照ったわたしの顔は、何も相手に伝えることができなかったのだろうか。親しい仲だからこそ、言いづらい気持ち、外に出せない言葉を察する思いやりが宿るのではないだろうか。言葉にして出さなければ、ほんとうに何も伝わらないのだろうか。だとしたら、あなたに笑いかけるこの顔や、あなたの頬にふれるこのてのひらは、あなたを想って震えるこの心は、何のためにあるのだろう。

by ichiko : カテゴリー:日々のあれこれ

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